
2026年9月18日、公益社団法人 京都府宅地建物取引業協会様主催の研修会にて、「一人でも実行可能な経営戦略設計の考え方」をテーマに、弊社代表取締役の木村圭志が登壇いたしました。
本講演では、一人社長や少人数で不動産会社を経営する方に向けて、忙しさや売上の課題を分解する方法、自分が担う仕事と任せる仕事の切り分け方、AIを使った改善サイクル、経営判断の軸を自分の言葉にする方法について解説しました。
■主催
公益社団法人 京都府宅地建物取引業協会
■タイトル
一人でも実行可能な経営戦略設計の考え方
■講師
株式会社流導 代表取締役 木村 圭志
■内容
AIの進化によって、お客様も不動産に関する情報や知識を簡単に得られるようになりました。これまで不動産会社の価値の一つだった情報格差は、少しずつ小さくなっています。
一方で、不動産会社の数は増え、人材の確保は難しくなっています。小さな会社が限られた人数で事業を続けるには、何でも自分で抱えるのではなく、自社が何を大切にし、何をしないのかを明確にする必要があります。
講演では、経営の正解を一方的に示すのではなく、木村自身が株式会社流導で実践している取り組みも紹介しながら、参加者の皆様に自社の経営を振り返っていただきました。
経営の「当たり前」を手放してみる
木村は、前職で不動産テック企業の役員を務め、4人だった組織を1年余りで20人以上に拡大し、取引先を約10倍に増やした経験があります。
当時は、毎日の会議、理念の共有、数値の可視化、トークスクリプトや営業資料の整備、1on1など、組織づくりに必要だと考えられる施策を幅広く実行していました。
株式会社流導でも、当初は主要メンバーが頻繁に連絡を取り、会議を重ね、互いの価値観を理解しようとしていました。
しかし現在は、「経営者はすべての数字を見るべき」「主要メンバーは頻繁に会議をすべき」「夜間や休日も取引先へ対応すべき」といった、これまで当たり前だと思っていたことを見直しています。
会議の方法を変え、メールの共有範囲を減らし、夜間や休日の対応も原則として行わないようにしました。それでも会社は動き、取引も継続しています。
経営の常識に自社を合わせるのではなく、自分たちが大切にしたい働き方や関係性から、必要な仕組みを考え直す実践例としてご紹介しました。
忙しさを構造の問題として捉える
少人数の不動産会社では、経営者が集客、反響対応、商談、契約、書類作成、顧客対応、数字の管理など、多くの業務を担っています。
カレンダーには予定が入っていなくても、判断や事務作業に追われ、次の一手を考える時間がなくなることがあります。
講演では、この状態を経営者の能力や努力の問題ではなく、一人で複数の役割を担う構造上の問題として捉えました。
そして、売上を次の3つの要素に分けて考えました。
・時間
・単価
・成約率
時間については、判断に迷って手が止まっていないか、同じ方法を無意識に繰り返していないかを確認します。
単価については、値引きを前提に受注していないか、自社の付加価値を言葉で説明できているかを見直します。
成約率については、見込み客の判断が感覚だけになっていないか、失注した理由を分析できているかを確認します。
漠然と「もっと頑張る」のではなく、どの要素に課題があるのかを分けることで、取り組むべきことが具体的になります。
仕事を任せるための3つの問い
日々の業務を見直す際には、次の3つの問いを使って、自分が担う仕事と、人やAIへ任せられる仕事を切り分けます。
1.本当に自分の判断が必要な仕事か
2.繰り返し発生する仕事か
3.型にできる仕事か
木村自身も、これまで自分で行っていた請求書業務を外部へ依頼し、将来的にはAIへ任せられるよう、まず業務の流れを型にする取り組みを始めています。
不動産実務でも、反響対応、内覧への同行、査定の提示、契約後の連絡など、社長自身が行うことを前提にしている業務があります。
しかし、どの接点を社長が担当すべきかは、会社によって異なります。
お客様との信頼関係をつくるうえで欠かせない仕事は自分が担い、繰り返し発生する定型業務は、人やAIへ任せることを検討します。
紹介営業にも異なる2つの戦略がある
講演では、不動産会社の主要な集客方法の一つである紹介について、2つの方向性を紹介しました。
一つは、経営者自身の顔と名前で信頼を積み重ねる「人柄営業」です。
お客様や取引先と会い、話し、長い時間をかけて関係を築くことで、「この人だから紹介したい」と思ってもらいます。紹介された時点で信頼の基盤があり、質の高い相談につながりやすい方法です。
もう一つは、自分が動けないときでも紹介が止まらないよう、紹介制度やコミュニティなどの仕組みを整える方法です。再現性を高めることで、事業規模を広げやすくなります。
どちらが正しいというものではありません。
関係の深さや紹介の質を重視するのか、再現性や事業規模を重視するのかを考え、選んだ方法をまずやり切ることが重要です。
新しい方法を知るたびに戦略を変えるのではなく、一度実行し、自分が納得できるところまで検証してから、続けるか変更するかを判断します。
AIを一人社長の壁打ち相手にする
一人社長には、日々の行動を確認し、改善点を指摘してくれる上司がいません。
そこで講演では、AIを経営判断の代行者ではなく、PDCAを回すための壁打ち相手として利用する方法を紹介しました。
まず、目標売上、平均単価、過去の成約率などをもとに、必要な成約件数や相談件数、今週の行動量を逆算します。
次に、アプローチ数、反応数、商談数、媒介獲得数、成約数などを記録します。特別なシステムは必要なく、スプレッドシートやメモ、商談音声の文字起こしから始められます。
講演では、買取再販会社で営業担当者の数字を分析した事例も紹介しました。
売上だけを見ると成果を上げている担当者でも、物件を買い取ってから販売するまでの期間が長く、金利などの見えにくいコストが増えていたことが、記録を整理したことで分かりました。
売上の結果だけでなく、成果に至るまでの時間や行動も記録することで、本当に改善すべき場所が見えてきます。
AIの提案を翌日の行動に変える
行動記録をAIへ読み込ませ、「今週の良かった点と改善すべき点を3つずつ教えてください」と依頼すれば、振り返りの叩き台を作れます。
ただし、AIの分析を読んで満足するだけでは改善にはつながりません。
提案された内容から一つを選び、「明日はこの行動を変える」と決め、実際に試します。その結果を再び記録し、同じ観点から振り返ることで、改善のサイクルを継続できます。
AIが示す内容は正解ではなく、あくまでも叩き台です。個人情報を入力せず、重要な契約や法的判断を任せず、最終判断は経営者自身が行う必要があります。
数字だけでは再現できない経験を言葉にする
営業担当者の行動を数値化しても、その行動をそのまま他の社員がまねれば、同じ成果が出るとは限りません。
例えば、成果を上げている営業担当者が月に10回電話していることが分かっても、電話するタイミング、質問の順番、相手の反応を待つ時間など、数字には表れにくい判断があります。
講演では、売れている人や経験豊富な経営者が無意識に行っていることには、「すること」だけでなく、必ず「しないこと」があるとお伝えしました。
どのタイミングでは口を挟まないのか、どこまで相手の話を待つのか、どのような違和感を持ったときに進め方を変えるのか。
こうした暗黙知を言葉にすることで、自社独自の営業方法や判断基準として、社員教育やAI活用へ生かせるようになります。
Sailで意思決定の軸を言葉にする
仕組みを整えて数字を記録しても、経営者自身の判断基準が曖昧なままでは、戦略を選び、実行し続けることが難しくなります。
講演では、弊社が開発している言語化メソッド「Sail」を用いて、曖昧な感覚を意思決定の軸となる言葉へ変えるワークを実施しました。
参加者の皆様には、経営者やリーダー、営業担当者など、それぞれの立場で大切にしていることを書き、その反対にある状態も言葉にしていただきました。
木村は、現在大切にしていることとして、「儲かるか」「こうすべきか」だけで判断するのではなく、自分や一緒に働く人が楽しい、ワクワクする、やってみたいと思えることを選ぶと説明しました。
その反対には、「利益が出るか」「こうすべきか」を判断基準にする状態を挙げ、一言で「投資家」と表現しました。
大切にしたいことと、その反対にある状態を並べることで、自分がどちらへ進もうとしているのか、判断が揺らいだときに何へ注意すべきかが見えやすくなります。
理念にも「目指さない姿」を書く
株式会社流導では、パーパス、ミッション、ビジョン、バリューに、目指す姿だけでなく、その反対となる「目指さない姿」も記載しています。
「どのような会社を目指すか」だけでなく、「どのような方法では実現しないのか」「何を理由に利益を追わないのか」まで明確にすることで、理念の境界が見えやすくなります。
この考え方は、AIや社員への指示にも活用できます。
依頼する内容とともに、「ここはしなくてよい」「この範囲には時間をかけなくてよい」と伝えることで、相手が不要な作業まで行うことを防げます。
目指す姿と目指さない姿の両方を言葉にすることが、経営判断だけでなく、社内のコミュニケーションやAIへの指示にもつながります。
■おわりに
少人数の会社が経営を続けていくためには、すべての仕事を経営者が抱えるのではなく、何を自分が担い、何を人やAIへ任せるのかを選ぶ必要があります。
その判断には、売上や成約率などの数字と、現場で感じる違和感の両方が必要です。
さらに、自社が何を大切にし、何をしないのかを言葉にすることで、選ぶべき戦略、必要なツール、追いかける指標も絞りやすくなります。
講演の最後には、参加者の皆様に、今回気づいたことや明日から試したいことを一言書いていただきました。
今後も株式会社流導では、不動産会社の経営者がAIと自分自身の言葉を活用し、自社らしい経営戦略を実行し続けられるよう、現場に即した支援を行ってまいります。

